スイス経済は好調である一方、インフレ率は鈍化している。それにより、スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は早期に利下げに踏み切る可能性が高いとみられる。
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)のトーマス・ジョルダン総裁は今年9月末で辞任すると発表した。在任期間が12年に及んでいたヨルダン総裁は、絶えず変化する環境の中でスイス経済の舵取りとして称賛されている。
同氏は2007年に世界市場に打撃を与えた金融危機の直前に金利設定者となり、2012年にはスキャンダルに見舞われた前任のフィリップ・ヒルデブランド氏の後任となった。
ジョルダン氏は、クレディ・スイスの破綻は自身の決定にいかなる影響も与えていないと述べた。それでもジョルダン氏の辞任は、今年主要通貨を下回っているスイスフランの先行きに影響を及ぼすことになった。
フラン高を抑制するためにSNBが2014年末にマイナス金利を導入したにもかかわらず、スイスフランは過去10年間、対ドル・ユーロで急騰した。
この超緩和政策は、世界的なインフレ危機によりSNBが2022年に方針変更を余儀なくされるまで実施されていた。市場は現在、インフレ鈍化を受けて今月下旬にSNBが低金利に戻ると予想している。
ジョルダンSNB総裁は1月のインタビューで、SNBの最新のインフレ予測を踏まえると、さらなる利上げは必要ないとしながらも、「インフレとの戦いはまだ完全には勝利していない」と述べた。
同氏は、通貨高がスイス経済、特に輸出国に悪影響を及ぼしていることを認めた一方で、今後景気後退に陥る可能性は低いと強調した。
安全通貨としてのスイスフラン
先月のスイスのインフレ率は予想よりも鈍化し、コア指標はさらに低下した。この展開により、SNBによる早期利下げ観測が後退した。
スイス統計局によると、2月の消費者物価は前年比1.2%上昇した。ブルームバーグ調査の予測中央値である1.1%を上回ったものの、1月の1.3%から低下した。
欧州中央銀行(ECB)とは異なり、SNBは2023年5月以降、目標を達成している。SNBは12月、物価上昇率の見通しを2024年に1.9%、2025年に1.6%の水準に引き下げ、物価上昇圧力の緩和を示唆した。
最新の統計によると、インフレ率はSNBの予想よりも低い可能性が高いとエコノミストは指摘した。スイス金融最大手のUBSはその予想を1.4%に引き下げた。
同国の経済は、ユーロ圏の0.5%増に対し0.8%増となり、2023年を通じて回復力を示した。同国最大の輸出産業である医薬・バイオ産業は、景気に左右されない産業である。
スイスフランは昨年G10通貨の中で最もパフォーマンスが良かった通貨で、SNBが以前に購入した海外資産を大量に売却したこともあり、12月には対ユーロで過去最高値を記録した。
潜在的な景気後退や中東紛争の再燃などの地政学的リスクに対する懸念の高まりも、投資家が安全資産に殺到し、その強さをさらに高めた。
スイスフランの今後の見通し
スイスフランは2023年、G10通貨の中で最も堅調なパフォーマンスを示す通貨として際立っていた。しかし、ヘッジファンドや資産運用会社は、4週連続でスイスフランの続落に対する見方を強めている。
米商品先物取引委員会(CFTC)によると、スイスフランの純ショート・ポジションの規模は3月8日までの週に12.000ロットを超え、2023年12月以来の高水準となった。
米証券会社チャールズ・シュワブとバンク・オブ・アメリカもスイスフランのショートポジションを持っている。欧州最大の資産運用会社も同様に弱気で、ポジションをアンダーウェイトに調整している。
欧州の大手資産運用会社アムンディのグローバルFX部門責任者、アンドレアス・ケーニッヒ氏は、スイスフランは今年末までに対ユーロで等価になるとみている。この見方はブルームバーグ調査の予想中央値0.98よりも悲観的なものである。
同氏によると、スイスのインフレ率が下がり続け、SNBもスイスフラン高が必要ないことを認めれば、為替レートはさらに下落する可能性が高いという。
ジュリアス・ベアのエコノミスト、デービッド・アレクサンダー・マイヤー氏は、昨年第4四半期のスイスフランの相場について最も正確に予測した。同氏は、スイスフランは過大評価されていると結論づけた。
特にSNBが外貨準備の購入を再開する可能性が低いことを考慮すると、金利の低下はスイスフランにさらなる下落圧力をかけるだろうと同氏は主張した。
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